聞く力

視覚と聴覚、自分はそもそもどちらが優位の人間だったかというと、かつてはかなり視覚に頼った生き方をしていたと思う。特に学生だった頃は。
というのは、小学生の頃、当時は学習塾に通い学校の勉強を先取りしていたこともあって、テストを受ければほぼ毎回90〜100点は取れていた。
だが、聞き取り問題だけは苦手としていた。英語のではない、日本語の聞き取り問題をだ。具体的な点数は覚えていないが、いつもの筆記テストでは自分に全く及ばないような友達より、聞き取りテストの点数だけは普通に悪かった。それを不思議に思ったらしい先生から、ラジカセで流した設問の音声が何らかの理由で聞こえなかったのかと質問されたことがあったが、確か返事ははぐらかしたと思う。滅多に取ったことのない出来の悪い点数を取ったことが恥ずかしくて。
手を動かして読んだり書いたりする能力と比較して、人の話を聞いたり、自分の考えていることを話して言葉にまとめる能力は、当時は極端に低かったように思う。
というか、今思うと「かく」こと自体が好きで、それが上手く他の能力を補う形で好成績を残せていたのだと思う。絵を描くことにも、日々、先生に提出する日記を、無駄に長くつらつらと書くことにも時間を忘れて熱中していた。そう、その瞬間は、自分を取り巻く音声はほとんど意識に登っていなかった。つまり僕の頭は、音声をどちらかというと無駄な雑音として捨象する能力に長けていたのだと思う。興味が湧いたり注意を払う対象として集中するのではなく。
決してそれだけが原因だとは思わないが、このことも自分の聞き取り能力の弱さに繋がっていたのだろうと、今では思う。