「顔と性格、お前ならどっちとるよ」
「俺は断然、体かな。顔も性格も二の次だよ。とにかく肉感だよ、肉感。抱き心地至上主義なの、俺は」
「ははは、さすがセックスマシーンじゃん。答えを裏切らないね。でも、よく考えてみると確かに、このよくある二択の質問って、体のことは意図的に除かれてる気がするよな。プラトニックな関係ならまだしも、パートナーを選ぶ基準に肉体的な要素が全く無いと言ったら、それは嘘だと思うし」
「そう。俺は正直なんだ。そして、意図的に隠されたものを見抜く力もある。だてに毎晩、ピストン運動してねーのよ」
「それとピストン運動になんの関係があんだよ。あんなへんてこな運動、思考停止の極みだろ、むしろ。その証拠に、発射の後は虚しくなる」
「分かってねーな、お前は。だからセックスマシーンにすらなれない、憐れなガキなんだよ。例えばな、卓球という競技は鼻で笑われることが多いスポーツだと思うんだが、その道を極めた人間にとっては、ボクシングをしながらチェスをするようなのだと言わしめるほどのスポーツなんだよ。そして、俺からしてみればセックスも一種のスポーツだし、相手の心理を読みつつ頭を使いながら体を使う行為の、どこが思考停止の所業なのか、俺には全くもって理解出来ないね。それに、虚しくなるってなんだよ。試合が終わった後は、お互いの健闘を称え合うのがマナーってもんだ。自分だけ虚無に浸ってる暇なんて、本当のセックスには無いんだよ」
「ああ、確かに俺は、セックスマシーンにすらなれない憐れなガキかもしれんが、お前の言う、本当のセックスとやらには懐疑的だな。そして、セックスがスポーツだという考え方にも抵抗がある。その言い方には何か生命に対する冒涜を感じるんだよ」
「生命に対する冒涜ぅ?何を言ってるんだい、君は。それは多分、スポーツという概念に対する誤解があるな。どうせ君は、レクリエーションだとか健康目的に体を動かすことだけがスポーツだと思い込んでいるんだろうよ。オリンピックを観てみろよ。スポーツの祭典だ。競技者一人一人が、体をめいいっぱい使って、生きていることへの喜びを爆発させてるじゃないか。そこのどこに生命に対する冒涜が入り込む余地があると言うんだね」
「ふっ。詭弁みたいだが一理あるかもな。ただやっぱり、セックスは部活にもならなければ、地域住民の交流の場にも、ましてや観客を集めるような催しにもならない。だから、セックスをスポーツと言うには大袈裟だし、もっと個人的なものだと思うがね」
「おいおい。なにカマトトぶってんだよ。世間にはヤリサーなるものもあれば、Tinderとかを通じて近場にいる人とカジュアルにセックスする人間がいたり、大手AVサイトには毎日、全世界から視聴者が何億と集まってるじゃねーか。これらは表立ってはいないけど、言わば部活であり、地域交流であり、大規模イベントみたいなもんだよ。昔と比べれば限りなくセックスはスポーツ化してると断言出来るね。だから、世間をきちんと見抜けって。俺のオススメはピストン運動だ」
「あーあー、分かった分かった。お前の主張の仕方は譲歩知らずの突っ込みっぱなし、挿入しっぱなしみたいなもんだがな。お前は議論のピストンマナーを覚えろ」
「ピストンマナーか。あはは、そうだな。議論も一種のセックスであり、スポーツなのかも」
「そう、だから、握手で終わりだよ」
「ああ」